下廊下
2002年10月13・14・15日


10月13日
夕方、まささんと岡山で集合する。
そのまままささんの車で米原に移動。
米原から「夜行急行ちくま」に乗車する。
駅前の、コンビニで購入したビールで乾杯。
明日も早いので早々の就寝となる。
ただ、この列車は全てが座席となっていて寝台がない。
前に座席に人が座っていない。
こちらに転回させ足をのばしす。
しかし窮屈なことには変わりなくなかなか寝付けなかった。


10月14日
翌朝四時頃、松本駅に到着。
ここで乗り換える。
新宿からやってきた「夜行急行アルプス」に乗り換え信濃大町駅に一時間ほどで到着。
信濃大町駅からはバスに乗り扇沢に向かう。
しかし、バスの出発時刻までかなりの時間がある。
この時間の利用し、今日の朝食と昼食を調達する。
しかしコンビニがない。
「駅員に聞くと四キロぐらい先にしかないですね」とのこと。
駅前にコンビニがないとは・・・
遠いがここで食事を調達しなければ夜まで食べれない。
タクシーでコンビニに行く。
タクシーでコンビニに行く我々は一体何者であろうか?
とりあえず、無事食料は調達。
扇沢行きのバスに乗車する。
一時間もかからずに到着。

ここ扇沢は黒部アルペンルートの玄関口となっている。
有名な黒部ダムや立山といった高原が公共交通機関で手軽に楽しめる。
しかもこの時期は紅葉が非常に美しく大混雑となる。
扇沢で黒部ダム行きのトローリバスに乗り換える。
トローリバスは電車のように架線から電気をとり走行するバスだ。
黒部ダム建設、そして現在では維持のために利用されている関西電力のトンネルを利用して走っている。
早朝六時にもかかわらずバス乗り場は大混雑である。
大型の観光バスが並び、じじばばがわーわー言っている。
列に並び何とか始発に乗車することが出来た。
始発と言ってもバスが十数台で運行される。
かなりの人数だ。
ずっとトンネルなので車窓に何があるわけでもなく退屈だ。
二十分ぐらいで黒部ダムに到着する。
黒部ダムは巨大だった。

黒部ダムの説明


黒部ダムは黒部川に建設されたダムである。
このダムを挟み上流側を上廊下、下流側を下廊下という。
今回はこの下廊下を歩くことになる。
この下廊下は黒部ダム建設のために作られた資材搬入用の歩道となっている。
資材搬入といってもそれは全て人力で行われ。
歩道といってもここには過酷な登山道しかない。
黒部川は何万年も掛け北アルプスに深い谷を刻んだ。
その急峻な黒部渓谷に沿い、無理矢理に道を設営している。

下廊下の説明

黒部ダム上に景観を眺めに行く。
観光客がふれるダムをバックに記念撮影。


先は長いので出発となる。
黒部ダム内に一旦入り、一気にダムの下まで降りる。
巨大な黒部ダム、その下に降りるだけでも時間がかかる。
そして、下におりた際にダムの巨大さを再び実感する。



そこから黒部渓谷を下流に向け移動する。
谷深い黒部渓谷は紅葉が素晴らしくその景色は素晴らしく美しい。



黒部渓谷の景色はとても美しかった。
深い谷には下まで日が射さない。
太陽の光が、谷の上部だけ光の帯の様に射す。
色づいた木の葉が風にあおられそこを舞う。
まるで金の紙吹雪のようにきらきらと光り美しかった。

しばらくは黒部川の狭い河原に沿って歩く。
一時間ほどして左側から内蔵助谷が合流してくる。
丸太橋を渡る。



左側には黒部の三大岩壁の一つ「大タテガビン」がそびえている。
その高さは1000m以上あるだろうか。
恐ろしく高い。

黒部川はこのあたりから谷を急峻にする。
それにつれ、登山道も高度を上げ始める。
やがて、道の幅は1mも無くなる。
何もないところで1mというと十分な幅に感じる。
しかし、左は空に向かい垂直にそびえる岩壁。
右は吸い込まれるよう谷に落ちている。
しかも、谷の深さが尋常でない。
山側には2mmほどの番線(針金)が張っている。
気休めだが本当に気休めになる。



所々、道は消え丸太の橋が架かっている。
上の写真のとおり。
腕の太さぐらいの丸太が二本か三本。
はっきり言って、怖い。
泣きそうになるほど怖い。
と言うか無く暇もない。

夏にラフティングをした時のこと。
「なんだつまらんな。もっと、死を意識するようなスリルが味わいたい。」と言った。
のちに落ち着いた頃、まささんにこれでその願いが叶っただろと言われた。
叶いすぎである。死ぬほど怖い。

そんな危険は別として

渓谷の水もダム近くではエメラルドグリーンだったが少し下流に行くと素晴らしく透き通る。
険しい渓谷は激しい流れを産む。
荒れ狂う流れに恐怖し感動する



二時間ほど進むと残雪が見えてきた。
残雪。十月だけど残雪だ。
残雪の橋が谷に架かっている。
橋の下には川が流れている。


始めは小さなスノーブリッジだけだった。
しかし途中からスノーブリッジはトンネルと化した。
雪のトンネルは一キロほど続き、我々の目から谷には雪しか見えなかった。
その下には確実に激流が流れている。
しかし、音さえも聞こえない。
とても不思議だ。

出発から五時間ほどで十字峡に到着する。



右左から別の川が合流している。
そのため川が十字になっているのだ。
残念ながらその部分の写真は撮れなかった。
吊り橋を渡り先に進む。

途中、丸太の橋が折れているところがあった。
これには、困った。
なんせ下は絶壁だ。
苦労して渡りきる。



折れた丸太の下に荷物が若干散乱していたが
気にするのはやめた。
怖いから。

16kmほど移動すると仙人ダムに到着。
関西電力のダムである。

もちろん、有人のダムである。
ダムに隣接し巨大な寮が二棟そびえていた。
こんな山奥ににつかわないほどの近代的な建物である。
なんせ、下界(下界といっても公共交通機関がある地点。そこに行っても駅があるだけで無人地帯である)に行くのに
危険な道を16kmも歩かなければいけないのだ。
どうやってこんな所で生活して居るんだ?と考える。
オール地下のトロッコが通っておりそれで物資や人の移動を行っている。

ダムの横にはトンネルがチーズのように張り巡らされている。
そのトンネルからは湯気が噴き出し強い硫黄の臭いを感じる。
そこら中から温泉が噴き出している。
時間は15時過ぎ。
しかし谷が深いため暗い。
もう夜にさしかかっている。
道を急ぐ。

ここから一山を越えれば本日の宿泊地だ。
一山と言っても岩屋山も無いぐらいの小さな山。
しかしこたえる。
これまでの疲れが足を動かさない。


ダムを過ぎ二時間近く歩き16時頃、本日の宿泊地、阿曽原小屋に到着。
ビールを購入。350mlが500円もしたがうまいので三本も飲んでしまう。
店で生ビールを飲んだと考えればあまり損した気にはならない。
ビールを飲んだ後、テントを張り休憩。


この山小屋には豊富な温泉を利用して風呂がある。
本当に山の中にぽつんとある温泉で気持ちが良い。
疲れた足をもみほぐす。

テントに戻り、食事をする。
夜が更け八時頃就寝。
明日に備える。


10月15日
朝三時起床。朝食を作る。
出発の用意をしテントをたたむ。
五時前に出発。
先を急ぐため真っ暗な中をヘッドランプ頼りに進む。
星空が素晴らしく美しい。
星が多すぎるため、オリオン座がどれかわからないほどである。

本来であればこのまま渓谷を下り富山県側に出る。
しかし、落石のため通行不能。今年度の修復めどはないとのこと。
来た道をとって引き返す。結構辛い。
だんだん恐怖に慣れたためにさくさくと歩くことができる。
ただ、下を見てはいけない。



怖い。
景色は相変わらず美しい。


写真、左の真ん中ほどにある微妙に平らなところが道である。





しかし、前日の疲れが残っているためかだんだんと足が動かなくなってくる。
やっと、黒部ダムに着くがここからが大変。

黒部ダムの下から上まで急坂を上らなければいけない。
13時頃、足を引きずりながら登りゴール。